環境コラム「ご存じですか?」
最終回
現代アートが問いかける環境問題
「私たちのエコロジー」展
「私たちのエコロジー -地球という惑星を生きるために-」と題された展示会(森美術館・東京都港区)を観てきました。森美術館の開館20周年記念の展示会です。
国内外のアーティストによる映像、写真、彫刻、オブジェ、インスタレーション(展示空間を使った作品)による作品が、4つのゾーン(「全ては繋がっている」「土に還る」「大いなる加速」「未来は私たちの中にある」)に分けて展示され、観る者に問いかけます。
人間主体の開発の結果
作品を鑑賞していくにつれ、この展示会のタイトルに冠された「私たち」という言葉は、「人間」だけでなく地球上のすべての生物を指し、それらは相互に繋がっている、まさに「生物多様性」の概念を表現していることを再認識させられました。
第2章「土に還る」では、日本人アーティストの作品と共に、環境問題に関連する年表も展示されていました。水俣病やイタイイタイ病などの公害問題、石油危機、福島第一原子力発電所の事故まで、日本の高度経済成長に伴って生起した問題と、それに対応した公害基本法や環境基本法の制定、パリ協定の発効などを時系列で眺めていくと、これらの問題は人間主体の開発の結果であることが痛感させられます。
これらを一言で「環境問題」という言葉でくくってしまうことは、含まれるテーマがあまりにも広範にわたり、その規模の大きさから、問題点の所在を実感することが難しいと感じました。しかし、現代アートによる個性的な表現を身体全体で感じることで、大局的な視点で環境問題を捉え、さまざまな側面に思考を巡らせることができました。
日本人の危機感は?
もう一つ気づいたことがあります。この展示会には平日に訪れたのですが、来場者の多くが外国人だったことです。欧米人やアジア人などのさまざまな人種の人達は、おそらく観光客だと思われます。日本人と比較し海外に住む人にとって、これらの環境問題は身近なものとして感じられているのでしょう。ものの考え方や価値観、歴史、教育、発信される情報などの違いがあるのでしょうが、私たち日本人はもっと危機感を抱いた方がよいのではないかと感じざるを得ませんでした。環境問題の深刻さに気づき、何か行動を起こそうとした時に手遅れとならないことを祈るばかりです。
終わりに
本コラム「環境コラム『ご存知ですか?』」は今回で終了します。
2010年4月に環境省のウェブサイト「わが家の環境大臣」内のコラム「今月のご存知ですか?」(運営:リトルスタジオインク)からスタートし、現在のリトルスタジオインクのウェブサイトにおける本コラムまで、13年間のロングランとなりました。
お読みいただきました皆様、どうもありがとうございました。
リトルスタジオインクの五味治子様は、13年間私にずっと並走してくださいました。ご多忙の中、毎回必ず寄せてくださる原稿への感想にいつも励まされていました。この場を借りてお礼申し上げます。
このコラムでは、身近な環境問題への気づきの場所を提供したいと考え、毎回執筆しておりました。皆様にこの想いが届き、さらにこれからも、日々の暮らしの中での出来事と環境問題のつながりを意識していただけると幸いです。
過去のコラム
2023 | |
12月 | 最終回 |
11月 | 家電売り場に見る品揃えの変化 |
10月 | ご存知ですか?“デコ活” |
9月 | 地球沸騰化の時代に |
8月 | 肉の消費がもたらす温暖化 |
7月 | エアコンの自動制御で電力ひっ迫に貢献 |
6月 | 高効率給湯器への移行 |
5月 | 省エネデータの任意開示が始まる |
4月 | 脱炭素社会の実現に向けて 省エネ法を大幅改正 |
3月 | 節電プログラムに参加してみました |
2月 | 寒くない家が当たり前に |
1月 | 気候変動の被害に特化した基金を創設 |
2022 | |
12月 | 自分ごととしての脱炭素化 |
11月 | ラベルレスのペットボトル飲料 |
10月 | 東京都 新築住宅への太陽光発電設置を義務化 |
9月 | ホテルのエコ進行中 |
8月 | フードバンクを支援するには |
7月 | 量り売りで食品ロスを削減 |
6月 | 簡易なツール利用を行動のきっかけに |
5月 | 使い捨てプラスチック製品を減らす |
4月 | 「食べ残したら持ち帰る」が当たり前に |
3月 | 有機農業の普及 |
2月 | バレンタインデーはフェアトレードチョコを |
1月 | 電力・ガス会社の省エネ情報を採点 |
2021 | |
12月 | COP26が開催 ~「1.5℃目標」に向かって~ |
11月 | ファッションをサステナブルに |
10月 | 気候変動の最新報告書が公表される |
9月 | プラスチックを対象にした新しい法律 |
8月 | カーボンニュートラルに向けた取り組み |
7月 | 改正温対法 |
6月 | SDGsをもっと身近に 169のターゲットの日本語コピー |
5月 | 高校教科書 ~日常生活から学ぶ~ |
4月 | ゼロカーボンシティ宣言 |
3月 | 検針票のペーパーレス化 |
2月 | この冬 電力需給がひっ迫 |
1月 | SDGsとわたし達の暮らし |
2020 | |
12月 | 温室効果ガス 新たな目標 |
11月 | 集合住宅の断熱化 |
10月 | 不便の益 |
9月 | 宅配便の再配達 |
8月 | 石炭火力発電所 |
山川文子プロフィール
エナジーコンシャス 代表
執筆や講演を通じて、生活者視点での省エネ、環境に配慮した暮らしの情報を発信。
テレビ、新聞等のメディアでも広く活躍。
東京都地球温暖化防止活動推進センター(クール・ネット東京)顧問
一般財団法人省エネルギーセンター 上級技術専任職(国際業務担当)
[資格]
・消費生活アドバイザー(内閣総理大臣及び経済産業大臣認定)
・家電製品総合アドバイザー(一般財団法人家電製品協会認定)